熱海の秋風が心地よい9月27日から28日にかけて、静岡県熱海市にある芝浦工業大学の熱海セミナーハウスで、銭湯・サウナ研究会の第3回定例会を開催いたしました。今回は初めての試みとして1泊2日の遠征合宿スタイルを採用しました。参加者8名とゲスト講師を含めて合計9名という少数精鋭での開催となりましたが、その分密度の濃い議論と学びの時間を過ごすことができました。
今回のテーマは「淡路島フィンランド文化体験プロジェクト」。
ご登壇いただいた講師陣は、それぞれ異なるバックグラウンドを持ちながらも「淡路島を絶好調にする」という共通の夢に向かって歩んでいる3名の方々でした。
まず植松社長は、フィンランドに本社を置く世界最大のログハウスメーカーであるHONKAと、同じくフィンランドのサウナストーブメーカーHARVIAとの深いつながりを持ち、サウナを通じた「フィンランドの街づくり」を日本に広げたいという強い思いを抱いている方です。
次に野口社長は、コロナ禍という困難な時期を逆にチャンスと捉え、家族と共に淡路島に移住し、サウナを起点した貸別荘事業を通じて地方活性化を実践している社長です。
そして石川先生は、地域の夢を形にするお手伝いをしながら、植松社長の壮大なビジョンに深く共感し、このプロジェクトに参画している中小企業診断士の先生です。
植松社長のお話の中で特に印象深かったのは、フィンランドの豊かな森で育った木材への深い愛情と、それを使って住む人の未来や幸せを生み出す家づくりへの情熱でした。ホンカ社(世界最大のログハウスメーカー)とハルビア社(世界シェアナンバーワンのサウナメーカー)との連携により、フィンランドからの直接輸入で国際輸送コストを下げながら最安値でサウナ提供を実現しているという話は、ビジネス戦略上重要な考え方だと感じました。そして何より興味深かったのは、植松社長とログハウスメーカーであるホンカとの出会いが高校時代まで遡るという長い歴史があることです。「松を植える」というお名前を持つ植松社長が、フィンランドのパイン材(松)を扱うホンカ社と出会ったという話を聞いていると、不思議なご縁を感じずにはいられませんでした。
一方、野口社長からは、淡路島で実際に展開している「アケスケ」と「NUI」「SANUI」という3つのプロジェクトについて、現場の生の声を交えながら詳しくお話いただきました。「アケスケ」は「ココロもハダカに」というキャッチーなコンセプトを掲げるプライベートサウナとアウトドアリビングを組み合わせた貸別荘施設です。当初はフィンランド式のサウナ体験を売りにしようと考えていたそうですが、実際に運営してみると、むしろ20代の若い世代が非日常体験を求めて利用するケースが多く、バーベキューやジャグジー、そして何より仲間との特別な時間を過ごす場所として人気を集めているとのことでした。夏季の稼働率がほぼフル稼働状態という実績は、マーケットのニーズを的確に捉えた柔軟な経営の成果と言えるでしょう。さらに「NUI」「SANUI」という古民家をリノベーションして最大20人が宿泊できる大型施設として生まれ変わらせるこの取り組みは、「糸を縫い合わせる」というコンセプトのもと、老若男女、3世代の家族が「一つの屋根の下で一緒に過ごせる場所」を目指しています。

質疑応答の時間では、参加者から活発な意見や質問が飛び交いました。特に盛り上がったのは、淡路島の豊富な地域資源をどのように活用するかという議論でした。淡路島といえば何といっても玉ねぎが有名ですが、それだけでなく神戸牛の元となる淡路ビーフや、伝統工芸品である淡路瓦など、魅力的な地域資源に恵まれています。これらを食材提供や体験プログラムに積極的に組み込むことで、単なる宿泊施設を超えた、その土地ならではの価値を提供できるのではないかという議論が展開されました。
また、野口社長が特に力を入れているのが雇用創出への貢献です。地域の母親たちが働ける場を作ることで、単に経済効果をもたらすだけでなく、地域コミュニティの活性化にも寄与したいという想いを熱く語っていただきました。これは単なる企業の社会貢献活動ではなく、持続可能な地域発展のための重要な要素として位置づけられています。
一方、経営課題として、9月中旬から11月にかけての閑散期における稼働率向上が大きな問題として挙げられました。夏季のフル稼働状態と比べると、この時期の落ち込みは淡路島全体の観光客の減少もある厳しい現実です。しかし、この課題に対しても建設的な議論が行われ、企業研修や社員旅行などのBtoB向けサービスの展開など法人需要の開拓によって稼働率の平準化を図るという提案がなされました。
将来展望についても興味深いお話を伺うことができました。野口社長は、飲食店事業の展開と並行しながら、現在手がけているWeb制作や求人ビジネスの比重を徐々に下げ、観光業により注力していきたいと考えているそうです。これは単なる事業転換ではなく、淡路島という地域に根ざした持続可能なビジネスモデルの構築を目指す戦略的な判断と言えるでしょう。
2日間にわたる合宿を通じて、この「淡路島フィンランド文化体験プロジェクト」が単なる観光事業ではなく、地域活性化、雇用創出、文化交流という3つの要素を包含した総合的な取り組みであり、日本の地方創生における新しいモデルケースとしての可能性を秘めています。
私たち銭湯・サウナ研究会としても、来年の遠征では、まさに閑散期にあたる11月に野口社長の宿泊施設を実際に訪問し、現地でさらに深い議論を重ねながら、理論だけでなく実体験を通じて、私たちなりの貢献ができればと考えています。
